省略された主体は伝わらないかもしれない問題
こちらの記事を読んで、改めて元になったものを見直してみた。(上記の記事では明記されてないが、おそらくこの方のツイートだと思っている。)
この方はツイートの中で「ことばが通じない人」としていくつかの例を挙げられている。それぞれに対してなるほどと思う。
ただ、ツイートの文字数の都合かあるいは、一連のツイートが通して読まれることを期待してかは不明だが、拡散されて受け取った側との齟齬が発生することになった理由があるように思った。
それは、「主体が省略されている」ということだ。
具体的にはこの「ことばが通じない人(1)語句を理解しない」という部分。これは主体は何だろうか?
直前のツイートでは、次のように語られている。
ことばというものは通じないものです。あなたの頭の中で考えたことを、100%相手に理解してもらうことはそもそも不可能。それでも、何とか伝える方法を考えたい、というのが私の希望です。ただ、社会生活上、「ことばが非常に通じにくい人」を見極めることも必要です。その判断基準を挙げてみます。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2017年1月5日
「あなたの頭の中で考えたことを〜」とあるので、おそらく「あなた」が想定されているのだろう。
それを踏まえると先ほどの部分は、次のようになる。
「あなたにとって」ことばが通じない人
「あなたにとっての」語句を理解しない
ところが拡散された内容を見た人は、もちろん同じ主体を想定した人もいるが、「普通の人にとって」といった言葉を当てはめているようにも感じた。
そう受け取った理由の一つには「ことばが通じない」という、ちょっと尖ったようにも受け取られることばが選ばれていることだと思う。日頃コミュニケーションにおいて不満を持っている人を惹きつけるには、十分な言葉選びだ。
元のツイートでは3種類あると挙げられているが、いずれも「あなたと相手との間で共通する定義がない」ということだ。
例えば去年話題になったドラマのタイトル「逃げるのは恥だが役に立つ」だが、逃げたら即撃ち殺されるような社会だとしたら、役に立つどころか丸損である。そうではない社会に暮らすもの同士だからこそ、このような言葉がことわざとして通用する。
そうは言っても同じ国に暮らして同じ言語を交わしているのだから、だいたい通じるだろうと思うかもしれない。しかしどこかの会社の業務支援システム構築とかで打ち合わせに参加してみると、次々とその会社・職務でしか通じない業務用語を繰り出されてくるのだ。
会話がお互いに意味や意図を通わせ合う目的なのであるとすれば、どちらかだけではなく双方が定義を確認する姿勢が必要だろう。
最初にリンクした匿名の方は、まさにそのことを言われていた。
もっと言えば、「自分の意図したように自分の発言が伝わらなかったこと」を、「この人ことば通じないな」にすり替えて片づけてしまうことに、それをいかにも「ことば」に詳しいですみたいな方が「こういう人はことばが通じないから仕方がないのです、こういう人には近づかないようにしましょう」と推奨してしまうことに、恐れを感じています。
元ツイートの方は、その後同様の趣旨のようなことを言われているようにも読めなくもないのだが、いずれも「あなたが使っている言外の意味」「あなたのその言葉に対する理解」のように主体を補わないと、それこそことばが通じないのではないかと思った。