VRで何を夢見るのか?問題
シャープのOBの方が設立したベンチャー「team S(チームエス)」が、「VR書店」なるものを構想中であるとの記事があった。
この記事しか情報がないため記者の理解以上には知ることができないが、企画の内容は次のようなものらしい。
■実装内容
・地方の商店街の空き店舗などのスペースに「VR書店」を開設
・実際には本は置かず、インターネットを通じて購入
・ウエアラブル端末を頭部に装着
・本棚が並ぶ書店を模したVR空間を表示
・コントローラーあるいは手を空中で動かす仕草を認識して本を閲覧
そして、背景などに関しては次のように語られていた。
■企画の背景
「電子書店は本の検索購入には便利だが、町の書店で体験できる本とのわくわくする出合い、店員とのコミュニケーションを求めるのは難しい」と考えている
■将来像
「人が集まり、交流をしながら読書が楽しめるスペースにしたい」
【本とのワクワクする出会い】に関して、VRをその演出に使うのはアリなのかもしれない。しかし【店員とのコミュニケーション】や【交流】はどうだろうか?
ウエアラブル端末を頭部に装着することで、各々は隣り合わせにいながら別々の空間にいることができる。それが現実では得られないメリットだ。VRを通して他人と交流するならば、自室にいながらでも可能ではないだろうか。町の店舗に人が集まっているメリットを、この企画内容で活かしているようには感じられない。
何よりこれがわくわくやコミュニケーションを生む仕掛けだったとしても、それがどうその店舗での書籍販売につながり、利益を上げて継続していくことができるのだろう?
なぜVRで書店を再現しようと考えたのか?この記事ではそれを記述していないため、明確ではない。何か意図があるのではないかと思い高嶋晃社長の名前で検索してみると、昨年夏ごろの記事がヒットした。
team S = 高嶋晃さんではないのであくまで参考だが、電子書籍の抱える課題は3つあると考えられていた。
1:2次元だと商品の本当の価値を伝えられない
2:フォーマットの覇者がまだいない
3:購買行動自体に魅力が薄い
VRを活用することで、商品価値の向上と購買行動自体に楽しみを与えることができると考えられているようだ。
VRでわくわくしたら購買するのか?上がるのは商品価値ではなく体験価値なのではないのか?
ひょっとすると、VRを体験して感じたわくわくだけ駆動力になっているのかもしれない。それ自体は何も悪くない。実際VRは体験すると楽しい。しかし、わくわくと利益との間にはギャップがあり、それが埋められていないように感じる。
改めて最初の記事を見ると、直近の方針として次のようなことが書かれていた。
■当面の行動
・地方自治体と連携
・商店街の空き店舗を活用し図書館を再現した原型モデル「VR図書館」の実証実験を実施
・課題を探り、運営方法などを詰める
地方自治体ということは、助成金をベースにまずは試してみようということだろう。利益につなげる方策は、やはりまだ見つかってはいないのだろうか。
VRは手法だ。「VRで何をやるか?」ではなく「それを実現するのにVRでなければならなかった」でないと、立ち上げ時点のVRの陳腐化とともに心中することになる。
実現したいことを考えるには、まずは今ある技術を忘れてただ妄想したほうがいい。将来像も、今の技術ではできないが技術が進むにつれて実現したいことを考えるべきだ。